散歩にあてなど要らない
時間を気にせず、ただぶらぶらと歩くだけの散歩が好きだ。曲りたい時に道を曲がり、入りたいお店に入る。公園を見つけたらフラッと中に進み、ベンチがあればそこに座る。
今日も家を出て散歩をした。顔に日焼け止めだけ塗り、時計は持たずにスマホと財布と鍵だけ持って出た。
台北の路地には引き込まれる。花に呼ばれるようにして、進む方向を変えて曲がった。その瞬間、かすかにナンプラーの匂いがした。
大学生の時、バイトしていたビュッフェ店に、しょっちゅう東南アジアのツアー客が来て、食事にナンプラーをかけて食べていた。だからその匂いはうんざりするほど嗅いできた。私の鼻には、なんとも受け入れがたいタイプの匂いだ。
それでもそのまま道を進んだ。気分はトトロのメイだ。歩くの大好き。どんどん行こう。
どこからか聞いたことのないジャンルの音楽が聞こえてきた。かなり、爆音で。行き止まりがあったので方向を変える。すると、小さなインドネシア街に行き着いた。
ナンプラーの匂いは、どうやらこの辺りから発生していそうだ。
インドネシア街を抜けると、すぐ台北駅に行き着く。朝からバナナしか食べたなかったから何かお腹に入れたくて、美味しそうな何かを探す。
以前店の前に列ができていたぼろパンが、今日は列がなかったので、買ってみた。メロンパンのような生地で美味しい。
でもお腹は満たされない。これというものを見つけないと。
歩いていたら、肉を主張している店に行き着いた。
テカテカで柔らかいお肉を食べた。しっかりと食べた。美味しかった。でも水を持ってこなかったので、食べ終わる頃には液体を口に含みたくなった。こうともなれば、台湾の至る所にある飲料店に行くしかない。
もちろんタピオカを飲んだ。飲みながら二二八和平公園を散歩し、いい休日の午後。噴水がらは勢いよく水がスプラッシュして、若者は楽しそうに写真を撮って、家族連れは少し眠そうに歩く。
もう帰ろうか、とも思ったけど、歩いていると私の知らない建物に出会ってしまうから、冒険心と足が止まらない。
台北には、赤レンガの立派な建物が多い。この建物は病院らしい。建物のそばで絵を描く人が数名いた。
建物から去り、そのままあてもなく歩く。散歩にあてなど要らない。あてなどあってたまるもんか。
ふと、台北植物園に行きたかったことを思い出した。Google Mapを確認すると、植物園行きのバスが出てるバス停が近くにあった。これは行くしかない。
思いつきで、バスに飛び乗った。
台北は十分に都会だ。けれども、街の至る所に公園があり、緑があり、池もある。散歩にちょうどいいこの植物園はかなり広く、多すぎず少なすぎない程度の人が訪れていた。みな、あてもなくぐるぐる園内を回っているみたいだった。
台湾には、手を繋ぐ老夫婦が多いような気がする。また、台北の公園では、よく車椅子に乗った老人と、付き添いの東南アジア系の人を見かける。
植物を見にきたのに、人の観察をしていた。
日暮れの頃はなぜだか家路につきたい気持ちになる。バスに乗ったら人が多かった。なるほど、もしかしたらみんな同じように、家路につきたくなったのかもしれない。
今のうちに、台北をたくさん知りたい。行ったことのないところ、行ってみたいところ、気に入った場所に行こう。爪痕は残せないけど、足跡を残す気持ちで行こう。
できればフラッと、あてもなく。